橙に包まれた浅い青

受賞・入選など14篇。 写真詩・イラスト詩・ポエム動画など2333篇以上を公開。

2020年06月


「帰りたい。
 もう一度帰りたい」
顔を合わせるたび 口に出る台詞

帰れない
当分、帰れない
下手すれば 一生、帰れない

わかっているから
なんとなくでもわかっているから
口にせずにはいられない
「帰りたい」とくり返さずにはいられない

幼くても
周りの大人やら
テレビのニュースやら
学校での噂やらなんやらから
敏感に 嗅ぎ取っているのだろう

どれだけ除いても
どれだけ洗っても
あの頃の風景は帰ってこないと
あの頃の世界にはもう帰れないと

自然と
口癖になったのではなく
自覚的に 口癖にしたのだろう

帰れないとしても
「帰りたい」という想いを失わぬように
そう想う今を
決して、決して忘れてしまわぬように

彼女は
「帰りたい」を
口癖にしようと 決めたのだろう



                ( 第39回 羽島市文芸祭 現代詩 佳作 )




梅雨を経て
伸びに伸びきった芝生
さすがにそろそろ刈らなければと
精を出した
真夏手前の土曜日

芝刈り機を
買うほどでもないスペースに身を屈め
剪定バサミで
チョキチョキ、こつこつと芝を整えていく

とことん綺麗にしても
すぐにボウボウと元通りになる季節
あまり神経質になりすぎず
大まかに芝の高さを揃えていく




休憩を挟まず
一時間くらいかかって
まあまあの見栄えが完成
汗や風とともに
散髪に行った後のような爽快感が流れる

剪定バサミを片づけ
ほうきで刈った芝を集め
可燃二十リットルのゴミ袋一丁上がり!
景気づけに水を撒いていく

ホースから
穏やかに放たれた放物線
その先に
うっすらと虹が架かってゆく

こんなことで
これだけのことで
土曜日は
まだまだ長いと想える



             ( 第48回 岐阜市文芸祭 一般の部 現代詩 佳作 )



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