橙に包まれた浅い青

受賞・入選など14篇。 写真詩・イラスト詩・ポエム動画など2333篇以上を公開。

2021年05月


振り返る
べき時じゃない時に振り返り
ああでもない
こうでもない
結論なき迷路へと進んで迷い込む

何もかもが
芳しい手招きで誘っている
目移りさせていては消失の一途だよ

何を犠牲にして
何を無駄にして
ここまで来たのかなんて考えても
それらしい答えなど
それらしい応えなど

永劫回帰を思わせるしぶとさで
命題は巡り巡って
さっき昇ったばかりの陽を落としていく

その横顔だけで満たされたなら
こんなに悩まずに済んだのかもしれない
時間軸に犯されてしまった
「孤独」とはもう呼べない鬱を抱えながらも

わたしは振り返るのだろう
何度も、何度も、こうして振り返るのだろう
それだけは確実だ
それだけしか確実なんてないんだ



( 第64回 瀬戸市文芸発表会 詩 入選 )




何をやってるんだ
何がしたいんだ
続く晦渋の自問自答が虚空に響く

嘘で塗り固めた経歴は
当人でさえもいつからか
どこからどこまでが嘘なのか
真実と見分けがつかなくなってしまった
身勝手な原罪意識がもたげ
相槌を打つことさえ
打算に過ぎないのではと躊躇わせる

白銀の摩天楼
焦がれた思春期の残像
齧り倒した喪失の初春の名残
狂おしい濃度で畳み掛けるすべては
走馬灯のようにもったいぶった加速度で
あらゆる神経を瓦解させ
深海へと不埒に寄せては返していく

五感が不感症を患って久しい
最後に鏡に向って微笑んだ記憶も危うい

パン滓の残る
トースターからは
焦げついた匂いがうっすらと
火葬のような趣でうっすらと
漂いつつ
鼻元をくすぐっては 薄れていく今朝だった



( 第49回 岐阜市文芸祭 現代詩 佳作 )




2009年
第49回 大垣市文芸祭 詩の部 佳作




2011年
第47回 岐阜市文芸祭 一般の部 歌詞 入選


第38回 羽島市文芸祭 現代詩 入選


名古屋市民文芸祭 第62回 名古屋短詩型文学祭 詩部門 佳作




2012年
第45回 多治見市文芸祭 詩部門 奨励賞


第3回 関市文芸作品展 現代詩 一般の部 佳作


第48回 岐阜市文芸祭 一般の部 現代詩 佳作


第39回 羽島市文芸祭 現代詩 佳作


第42回 各務原市文芸祭 現代詩 文芸祭賞




2013年 
第46回 多治見市文芸祭 詩部門 入選


第40回 羽島市文芸祭 現代詩 入選


第49回 岐阜市文芸祭 現代詩 佳作


第53回 大垣市文芸祭 詩 佳作



2015年

第64回 瀬戸市文芸発表会 詩 入選






肯定も否定もされず
曖昧な「いいと思うよ」で
ぬるま湯の中
認められも許されもしないまま
漂い続けている
たぶんこれからもそんな予感

時代
といってしまえばそれまでだが
世代
といってしまえばそれまでだが

少子化や晩婚化を背景に
草食と肉食に振り分けられてしまいがちでも
その本質で蠢いている雑食精神

内向きやら受け身やらなんやらと
レッテルを貼られがちな氷河期にあっても
その深淵には燃え滾る暖炉がある

悲観しようと思えば
いくらでも悲観できてしまう
絶望しようと思えば
いくらでも絶望できてしまう
「現代は・・・」なんてそんなもんさ
「最近の若者は・・・」なんてそんなもんさ

いっちょ
境界線を引き直してみるのも一興
いっそ
世間のモノサシと距離感を保つのも一驚

現実も理想も平等に吸収しながら
謙虚と遠慮を履き違えず
この時代の
「若者」なりにその若さを活かせばいいさ
この世代の
「若者」なりにこの若さを活かすとするさ



( 第40回 羽島市文芸祭 現代詩 入選 )




ニット帽の幼女
白髪交じりの老女
スクロールする駐車場で
台本でもあるかのように立ち止まる

言語なき会話
紡がれる身振り手振りの無重力
窓越しに観察する月曜日のわたし

縁取る午前の陽光
遮り始めた厚い灰色の雲
促されるようにして
幼女の母はマフラー片手にやって来る

水たまりもないアスファルトにも関わらず
陽光はプリズムと見紛うばかりの細やかさで
透明な黄金色の額縁そのものとなり
その三人を静かに縁取っていく

世界は
わたしが想うほど
素晴らしいものではないのだと
世界は
わたしが想うほど
くだらないものでもないのだと

教え諭すかのように
午前の陽光は
ふんだんな慈悲を
未だ見ぬ午後へと受け継いでゆく



( 第53回 大垣市文芸祭 詩 佳作 )




ひまわりを背に
端正な顔立ちがしっとりと崩れてゆく
シャッターの音が
シャッターの音だけが
あたり一面に 静かに 降り注いでゆく

火曜の午後
思いつくまま講義をすっぽかし
キミを連れてやって来た
壮大なひまわり畑

夏はまだまだこれからと
自分で自分に言い聞かせたくて
雑誌カメラマンを真似て
その儚さを 永遠にしようと想った

振り切るように
思い出すように
ふいに走り出すなめらかな被写体
その姿を追ううちに
撮ることが どんどんカタルシスに

どこに行くかさえ聞かず
黙ってついてきて
モデルよりモデルらしい
モデル然とした振る舞いを始めた時
久しぶりに
その全身から”女”を感じた
ため息を忘れるほど”女”を感じた

汗なのか涙なのか
よくわからないものが
その頬を この頬を つたってゆく

シャッターの音が
シャッターの音だけが
この葛藤を縫い ひまわりを潤してゆく



( 第46回 多治見市文芸祭 詩部門 入選 )




愛に紛れた憎悪が引き千切る
崇高な結び目を容易く
歴史的経緯を踏まえずに
考慮らしい考慮の跡も残さずに

中枢を巡る空虚な交響曲
場末の雑音と大差ない不協和音
表向きはスーツでマニフェストをビシッと
内輪においても理想論でネクタイをキチッと
ただ口から出る内実は
思いつきか単調かの軽薄止まりの能足りん

後先の枠外で重なる躊躇
臨機応変より整合性を重んじるあまり
修正よりも保身に腐心していく悪循環
その傍らで置き去りにされていく真実たち

巧妙な間を経てから開示される
形式的なシミュレーションのお粗末さ
被害拡散の根源が
しおらしさとは正反対の振る舞いで
堂々と重厚な論理の傘を掲げて難攻不落演目

何が国家だ
責任のかけらも滲ませないくせに
何が国民だ
数年で忘却にかまけて他力本願のくせに




求めちゃいないよ
気にしてなんかいないよ
わざわざ言明するのが胡散臭いよ
わかってるよ
わかってるけど
否定せずにはこの
なけなしのアイデンティティは
廃れちまうってもんよ

焦がれてるよ
ああ焦がれてるよ
ランキングというランキングに
音楽も、文学も、経済も、何もかも
上位ばっかチェックして
その上っ面ばっかチェックして
その時代に後れまいと
その世代に遅れまいと
インスタントな快楽を注いでたら
ほらまた夜明けだよ
そんなん繰り返してるよ
認めたかないけど繰り返しちゃってるよ

こんなアウトプットから
生み出されるインプットなんて
そんなインプットから
導き出されるアウトプットなんて
わかっちゃいるけど
かっぱえびせんと同じだよ

残念ながらないんだよ
拠り所が
震えなくて済む拠り所が
思わず叫ばなくて済む拠り所が
ランキングしか
ランキングしか




 寂しくて寂しすぎて
そこら中の携帯を徐に鳴らしていく
すぐに返答か返信は来て
少し満たされて
わざわざ時間割いて会ってくれる人もいて
なのに会ったら会ったで
数分もせずに虚しさの極み

何がしたい? 何もしたくない。
何をすべき? 何もしたくない。
と言いつつ
携帯だけは肩身離さず持ち歩き
今日も用もなく
寂しさに押されるがまま
君らの携帯を鳴らしています

寂しくて苦しくて
何が?と聞かれたら「特に・・・」
切なくて苦しくて
大丈夫?と聞かれても「うん」としか

高層の窓明かり
あの一つ一つで練られている
その構想にひけをとらない生き方を
できた今日だったのだろうか
できた昨日までだったのだろうか
声にならない
してはいけない独り言を繰り返すうちに
なんとなく頼んだ
フライドポテトが冷めていく




放り投げられたタオル
頑として掴もうとしない主義
一歩間違えば
要領が悪いとしか映らない

どんなに時代が流れても
根本的な生き方までは変えられない
時を経るごとに
無理してまで変える必要はないと痛感

逃げても逃げても逃げ切れない
それをマイナスと捉える時間も過ぎていき
やがてすべてはポジティブへと結ばれる

現実は甘くないが解釈の匙加減は無限大
突き抜けるべき瞬間はそれぞれの鼓動の中に
想像は甘くないが創造の醍醐味は無限大
焚きつけるべき瞬間はそれぞれの志向の中に

ペースがある
そのペースをまずは把握する
刻々と変わるそれを
他人事のように俯瞰して束ねていく

難しいことほど意外と簡単なもので
簡単なことほど意外と奥が深いもので

着地する寸前の
タオルを視界の片隅に見つめながら
まだ
そのタオルは必要ないと
冷静にハンドリング




自堕落の極みをなぞる
土曜、日曜のような平日を延々と
貪りつくすインスタント食品
満たされたらすぐエロ動画めぐり
肝心なことは遠まわし
暮れていくだけの毎日
拍車をかける要領の悪さと非効率性
履き違えも甚だしい芸術性を振りかざしては
正当防衛には程通い口実をこねくり回し
愛なき哀に耽りに耽って
時代錯誤としか言いようのない
悲劇のヒロイン気取りでのらりくらり
許されない生活水準の中でぬくぬくと
罰はいつ振ってくるのでしょう?
罪とはいつ向き合えるのでしょう?
根本的な問いさえも
単独では見つめられなくて
他力本願に他力本願を塗り重ねる自堕落




良く
見せようと見せようと思うがあまり
付き合って2週間の彼女に
「ここは俺が奢るから」と
今月は余裕がないことをひた隠す

良く
見せようと見せようと思うがあまり
ニートの息子に
「最近、就活はどうなんだ?」と
面と向って尋ねることもできなくなった

良く
見せようと見せようと思うがあまり
普段はそんなに話さぬクラスメイトに
「数学、何点だった?」と
苦手な数学で自分がいい点をとれた時だけ
自分から積極的に優越感を狩りに行く

疲れますね
思い返してその自分と向き合うと
嫌になりますね
改めてその自分を自覚しちゃうと

この「~ますね」という
共感を求めるような問いかけ自体が
自分を良く
少しでも良く
見せようと思ってしまう
私自身を表わしているのでしょうね



このページのトップヘ