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レポーターは叫んだ。
僕は何だか悲しくなった。
その絶叫振りに。 世の中全体の 安堵の 見えないため息に。
 

初めてその事件を知ったのは数年前。
彼女は5人殺った。
盛大にやった。
性差は無縁だった。
5人殺った。
堂々とやった。
週刊誌は書きたてた。
「連続殺人美少女の素顔」
「美少女」という形容がはびこった。
なんら違和感はなかった。
彼女はとうに成人を迎えていたが、かなりの童顔だったから。
僕と同い年といっても、誰も疑わないくらいの。
 

彼女はちょっとしたヒロインになった。
週刊誌は売れた。ネットオークションで写真は高値で取引された。
堅物コメンテーターも触れずにいられないほどのルックスの良さ。
まことしやかに広がる隠れた経歴の華麗さ。
バランスをとるように、道徳的側面からの中傷も過熱していった。
 
僕は夢中だった。
彼女はアイドルに等しかった。
そう、青春の1ページに色濃く飛び込んできた。
おそらく、僕と同年代のみんなが彼女に惹かれていた。程度の差はあれ。
1ヶ月くらいは学校でも彼女の話題で持ちきりだった。
 

そんな彼女に判決が下った。
そうそうたる弁護団に囲まれながら。
根強い草の根ファン達に囲まれながら。
12年の歳月が経っていた。
 

彼女は美しかった。
作品を慎重に見極め、確実にコンスタントに成功に導く。
トップ女優と並んでも引けをとらないくらい。
 
彼女はたくましかった。
海外の展覧会で火がつき、津々浦々でワークショップを通じて伝播していく。
国際的映像作家と並んでも引けをとらないくらい。
 

みんなわかっていた。
弁護側も検察側も。ファンもアンチも。
でも、世の中全体がどこかで別の答えを期待している節もあった。
 

彼女は死んだ。
「終身刑」という制度が導入に至る大きな口火として。
 
 



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